製造販売後DB調査

MID-NET®のデータの品質保証の取り組み

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はじめに

医療データの利活用にあたって、データそのものの品質・信頼性は極めて重要な要素です。

データそのものの信頼性が低ければ、そこから導かれる結果の信頼性も低くなることは自明であり、このため医療データの品質保証に関する様々な通知やガイドラインが出されています。1), 2)そして、公的な利用(例えば市販後調査への活用)のためには、これらの信頼性基準を満たす必要があります。

また、データの信頼性保証はデータベースの作成者だけでなく利用者も強く意識する必要があります。これは医療データの利活用において、活用するデータベースの信頼性が担保されているかどうかを利用者側が確認する必要があるためです。1)

しかしながら、国内における医療データの利活用はまだ始まったばかりです。業界として品質保証のノウハウが蓄積されているとは言い難く、医療データの活用を考える多くの企業・医療機関にとって大きなハードルになっていると考えられます。

今回は、医療データの品質保証の参考事例として、厚生労働省とPMDAが主導して構築した医療データベースであるMID-NET®に注目し、実際にどのような品質保証の取り組みが行われているのかを紹介します。

※注意:本記事ではMID-NET®の品質保証について公開されている情報を整理・抜粋して紹介しております。より正確な詳細情報については、詳細情報提供等依頼書をPMDAに提出することで情報提供を受けることが可能です。この点ご留意ください。

MID-NET®の概要

平成23年度にPMDA主導で全国10病院の協力のもと構築がはじまった医療データベースであり、平成30年から本格的にデータベースとして利用できるようになりました。

プロジェクト発足当初から医薬品の製造販売後調査への利活用を見据えて開発されており、国内の医療データベースの中でも特に高い信頼性があること、詳細な検査値データが含まれていることが特徴となっています。

MID-NET®の利用用途については、過去の記事をご覧ください。

MID-NET ®(Medical Information Database Network)を用いたデータベース(DB)研究一覧と研究事例の紹介

MID-NET®のシステム概要

MID-NET®のシステム概要を以下に示します。最大の特徴はデータを各医療機関で個別に保有しており、中央センターでは集計処理の管理と結果の統合のみを行う分散型のデータベースであることです。

システムの機能は主に以下の要素で構成されています。3)

  • 各病院の情報システムからのデータ抽出
  • MID-NET®のデータ形式(統合データソース)への変換
  • 統合データソースからの抽出・集計
  • 各病院から抽出・集計したデータの統合解析

「MID-NET®の信頼性と GPSP基準への対応」から画像を引用3)

MID-NET®の品質保証の取り組み

以下の3つの観点についてそれぞれ紹介します。

  • 組織・仕組み面での品質保証
  • 整合性・完全性の確認
  • モニタリング

組織・仕組み面での品質保証

品質保証の前提として、品質保証に関わる様々な取り組み自体が、適切に管理されていることが要求されます。

MID-NET®では、MRDAと呼ばれる仕組みを導入・構築し、品質マネジメントに取り組んでいます。4)具体的には、品質に関する基本方針の設定・管理計画および各種手順書の制定といったものであり、QMS(Quality Management  System)の概念に沿ったものと考えられます。

「MID-NET®の運営状況と今後の取り組み ~MID-NET®をより身近に~」から画像を引用4)

なお、管理・作成しているドキュメントの例として以下が挙げられています。

  • 管理組織(業務委託先を含む)・管理担当者・役割・教育の文書化
  • マッピング表、マスタの維持・更新⼿順、実施記録
  • 機器・機器設置場所・作業場所の管理規則、各種セキュリティの規定等
  • データバックアップ⽅針、実施記録
  • 災害時等の対応⼿順(リカバリの⼿順を含む)
  • データの信頼性及びシステムの信頼性を保証する記録
  • ⾃⼰点検(QC)、品質保証(QA)⼿順の作成、実施記録
  • 記録の保存に関する⼿順

整合性・完全性の確認

原データ(ここでは医療情報システムに保存されたデータ)をシステムで処理する上で重要となるのが、整合性と完全性です。つまり、処理後のデータは原データと矛盾がないか、欠損なく全ての原データを反映しているかといった観点です。

MID-NET®ではシステムを以下の5つのプロセスに分けて、各プロセスごとに整合性・完全性の確認を実施しています。

  • データの信頼性
  • 標準化の信頼性
  • 抽出機能の信頼性
  • 送信機能の信頼性
  • SAS変換の信頼性

各プロセスでの取り組みはそれぞれ異なるものの、共通しているのは、期待値・理論値との比較あるいは信頼できる別の手法による結果との比較によって信頼性を担保するというアプローチが取られていることです。

上記の内、データの信頼性と抽出機能の信頼性について紹介します。

データの信頼性

MID-NET®では、医療機関内の医療情報システムからデータを抽出し、標準化・匿名化等の処理を経て、統合データソースにデータが保管されます。

この統合データソースが医療情報システムのデータを正確に反映しているかどうかを以下のように確認しています。

  • 医療情報システムと統合データソースからそれぞれ一定期間のデータを全抽出
  • データ種別ごとに件数・特定項目の内容を直接比較
  • 頻度は年に1回程度

構築当初はデータの齟齬が多く、一致率は処方オーダで67.0%、検体検査では55.8%だったものの、修正と検証を繰り返し、現在ではほぼ100%の一致を確認できていると報告されています。5)

なおデータの齟齬の原因としては、不要なデータ移行、データの重複、予期せぬデータ送信停止などが見られたようです。

抽出機能の信頼性

MID-NET®では各医療機関に構築された統合データソースに対して、利用者の作成したスクリプトに応じた抽出・集計処理を行い、その結果を中央センターに送信しています。

この抽出・統計処理の正確性について、以下のように確認しています。6)

  • MID-NET®のシステムを使って統合データソースからデータ抽出・統計処理を実施
  • 信頼できる別の統計処理システムを使って同様の抽出・統計処理を実施
  • それぞれの抽出結果・統計処理結果の一致を確認

「医療情報データベース(MIDNET ) における品質管理 」から画像を引用6)

モニタリング

MID-NET®では定期的な整合性・完全性の確認だけでなく、システムの日常的なモニタリングを実施し、情報を収集・監視することで異常を早期に検知し対応できる仕組みを構築しています。

モニタリング項目としては以下が挙げられています。7)

  • システムのログ:システムの処理状況やエラー発生の有無を確認
  • 送受信されたデータ件数の比較:送信数と受信数を比較してデータ欠落の有無を確認
  • データサイズの変化:データ件数の明らかな増減を検知した場合に、医療機関に状況を確認

「MID-NET®の品質管理 JAPIC NEWS 2019.9」から画像を引用7)

関連する通知

MID-NETの品質管理は次の通知に⽰される各種要件を満たしていると公表されています。4)

  • 医薬品の製造販売後データベース調査における信頼性担保に関する留意点について(平成30年2⽉21⽇付薬⽣薬審発0221第1号医薬品審査管理課⻑通知)
  • 医薬品の製造販売後データベース調査における信頼性担保に関する留意点に係る質疑応答について(令和元年6月19日)

最後に

以上、MID-NET®の品質保証に関する取り組みについて紹介しました。

近年医療データ活用に向けて様々な通知が出され、ガイドラインの整備が進んでいますが、MID-NET®の取り組みとリンクした文言も多く見られます。データベースを活用して実現したい目的に合わせて適切な品質保証レベルを設定する必要はあるものの、MID-NET®の取り組みは一つの基準になるでしょう。

また基本的な考え方はGxP8)やQMSなど既存の品質保証の規範・規定に通ずるものがあり、それぞれで培った知見が、データベースの品質保証にも役立つと考えられます。

今後医療データの品質保証に関するノウハウが業界として蓄積されることで、ますます医療データの活用が進んでいけばと思います。

関連記事

MID-NET ®(Medical Information Database Network)を用いたデータベース(DB)研究一覧と研究事例の紹介

引用

  1. 医薬品の製造販売後データベース調査における信頼性担保に関する留意点について(平成30年2⽉21⽇付薬⽣薬審発0221第1号医薬品審査管理課⻑通知)https://www.pmda.go.jp/files/000223003.pdf
  2. 医薬品の製造販売後データベース調査における信頼性担保に関する留意点に係る質疑応答について(令和元年6月19日)https://www.pmda.go.jp/files/000230134.pdf
  3. MID-NET®の信頼性と GPSP基準への対応 https://www.pmda.go.jp/files/000223314.pdf
  4. MID-NET®の運営状況と今後の取り組み ~MID-NET®をより身近に~ https://www.pmda.go.jp/files/000239917.pdf
  5. MID-NET®本格運用に向けた取り組み Satomi INOMATA et al. RSMP vol.7 no.3, 215-224 https://www.jstage.jst.go.jp/article/rsmp/7/3/7_215/_pdf/-char/ja
  6. 医療情報データベース(MIDNET ) における品質管理 http://helics.umin.ac.jp/files/event_20150611/2015springtutor-3.pdf
  7. MID-NET®の品質管理 JAPIC NEWS 2019.9 https://www.japic.or.jp/service/whats_new/japicnews/pdf/JAPICNEWS19-09.pdf
  8. Good x Practice(GCP: Good Clinical Practice, GQP: Good Quality Practice など)
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ラ・サール高校、東京大学医学部医学科卒業。脳神経外科を経て、株式会社メドレーにてオンライン病気事典及び遠隔診療に携わる。株式会社トライディアで、データサイエンティストとして企業向けデータ解析・AI開発に従事。2018年に株式会社データックを設立。様々な医療データ解析、脊椎外科PRO問診システムや医療言語処理案件を経験し、リアルワールドエビデンス事業を立ち上げた。「医療4.0」では日本の医療革新に関わる医師30人に選出。

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