MAの成果につながる白書シリーズ

【資料あり】そのMA活動は臨床を変えたのか?~イベント前後の行動変容を処方の時系列分析で評価した研究~

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Key Message

  • RWDを用いることで、イベント前後の診療行動の変化を定量的に把握できる
    • 学会発表、論文公表、ガイドライン改訂、疾患啓発キャンペーンなどのイベント前後における診断率、検査実施率、処方率などの変化を、レセプトデータをはじめとするRWDを用いて評価できる。
  • 分割時系列分析は、イベント前後の変化を評価する代表的な手法である
    • 分割時系列分析(Interrupted Time Series Analysis:ITS)は、イベント後に生じた水準の変化と、その後の傾向の変化を評価する準実験デザインである。日本でも、JMDC、MDV、DeSCなどのRWDを用いた研究事例が報告されている。
  • 「イベント後に変化した」ことと「イベントによって変化した」ことは異なる
    • ITSは単純な前後比較よりも頑健な評価が可能である一方、イベントと同時期に行われた他の施策や、医薬品市場、診療報酬、社会環境などの変化を完全に排除できるわけではない。結果を因果的に解釈するためには、研究デザインの前提と限界を踏まえる必要がある。

はじめに

学会発表や論文公表、ガイドライン改訂、疾患啓発キャンペーンなどは、医療者の認識や診療行動に影響を与える可能性があります。本記事では、これらを総称して「イベント」と呼びます。従来、こうした活動の評価は、講演会の参加者数や論文の閲覧・ダウンロード数など、実施実績や活動量による評価にとどまることが少なくありませんでした。

しかし近年、レセプトデータなどのリアルワールドデータ(RWD)を活用することで、イベントの前後で診断率、処方率、検査実施率などがどのように変化したかを捉え、医療現場に生じた変化をアウトカムとして評価する研究が行われています。一方、イベント後に変化がみられたとしても、その変化を直ちにイベントの効果と結論づけることはできません。

本記事では、日本のRWDを用いた研究事例を中心に、イベント前後の診療行動を評価する考え方、代表的な解析手法、結果を解釈する際の注意点を解説します。

論文紹介

リアルワールドデータを活用することで、イベントが診療行動へ与えた影響を評価した研究が報告されています。ここでは代表的な2つの研究を紹介します。

SGLT2阻害薬の臨床試験公表が処方動向に与えた影響

本研究では、JMDCのレセプトデータベースを用いて、2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の月次処方率を算出し、分割時系列分析により、大規模臨床試験の公表、ガイドライン改訂、新薬発売後の処方制限解除といったイベント前後の処方動向を評価しました。その結果、各イベント後に、関連する医薬品の処方率や処方傾向の変化が認められました。また、患者を心血管疾患の既往やリスク因子に応じて層別したことで、心不全や心血管イベントとの関連が強い患者集団における処方変化を捉えています。特に、臨床試験の対象患者やガイドラインの推奨対象と重なる集団で処方増加がみられ、イベントで示されたエビデンスが実臨床の処方行動に反映された可能性が示されました。一方で、対象との対応が明確でない集団にも変化がみられ、研究結果の影響が本来想定された患者集団を超えて広がる可能性も示唆されています。

doi: 10.1111/jcpt.13768

過活動膀胱の疾患啓発キャンペーンが処方動向に与えた影響

本研究は、過活動膀胱に関する疾患啓発キャンペーンが、その後の治療薬の処方動向に与えた影響を評価した研究です。JMDCのレセプトデータベースを用いて、キャンペーン開始の約1年半前までに過活動膀胱と診断され、6か月間の確認期間に治療薬が処方されていなかった患者を対象としました。キャンペーンでは、特定の医薬品を直接宣伝することなく、テレビ、インターネット、紙媒体を通じて過活動膀胱の症状を紹介し、該当する症状がある場合には医療者に相談することや、薬物治療が可能であることを伝えました。研究では、キャンペーン前1年間と開始後2年間を観察し、未治療患者における過活動膀胱治療薬の初回処方を評価しました。Kaplan–Meier法やCox比例ハザードモデルに加え、5週間ごとの初回処方率を用いた分割時系列分析を実施した結果、キャンペーン開始後には初回処方率の上昇が認められました。本研究は、特定の製品を直接訴求しない疾患啓発活動についても、RWDを用いることで、実臨床における薬物治療開始の変化との関連を定量的に評価できることを示した事例です。

doi: 10.1186/s12913-018-3147-1

実務のポイント

RWDを活用することで、臨床試験の公表、ガイドライン改訂、規制当局からの情報発信、疾患啓発キャンペーンなど、さまざまなイベントの前後で診療行動がどのように変化したかを定量的に評価できます。

代表的な解析手法である分割時系列分析では、イベント前から続く経時的な傾向を踏まえたうえで、イベント直後に生じた水準の変化と、イベント後の傾向の変化を評価できます。単純にイベント前後の値を比較することとは異なり、もともと増加または減少していた傾向を考慮できるため、イベントと診療行動の変化との関連を検討するうえで有用です。

一方で、イベント後に診療行動の変化が認められても、その変化がイベントによって生じたとは直ちに結論づけられません。イベントと同時期に行われた他の施策、別の研究結果の公表、処方制限の解除、診療報酬・制度の変更、季節性、流通状況や競合薬のような市場環境なども診療行動に影響する可能性があります。また、時系列データでは、隣接する時点の値が相互に関連する自己相関にも注意が必要です。

そのため実務では、イベント前後に十分な観察期間と時点数を確保すること、評価指標の定義や分母を各時点で一貫させること、同時期の他イベントを整理することが重要です。さらに、変化の時期や方向がイベントの内容と整合しているか、イベントの対象と想定される患者集団で変化がみられているか、異なる解析条件でも同様の結果が得られるかを確認することで、イベントの影響を支持する根拠を強められます。RWDを用いたイベント評価では、変化の有無だけでなく、その変化をどこまでイベントの影響として説明できるかを慎重に検討することが求められます。

さいごに【資料あり】

RWDは、疾患啓発活動、臨床試験の公表、ガイドライン改訂など、さまざまなイベントが実臨床の診療行動に与えたインパクトを評価するためにも活用できます。分割時系列分析(ITS)は、イベント前からの傾向を考慮しながら、イベント後に生じた変化を定量的に評価する有力な解析手法の一つです。

一方で、ITSはイベントと診療行動の変化との因果関係を直接証明する手法ではありません。同時期に発生した他の要因の影響を完全には排除できないため、解析手法の前提条件や限界を理解したうえで結果を解釈することが重要です。

本記事に関連して、イベント前後の行動変容をRWDで評価した国内外の研究をまとめた補足資料を無料で配布しています。各研究の対象データベース、解析手法、結果の要点を整理していますので、ぜひお役立てください。

> 無料ダウンロード:イベント前後の行動変容を評価した研究7本の要約(PDF)

また、弊社では評価したいイベントや目的を伺ったうえで、各データベースの特性に合わせた研究デザインの設計や解析のご支援をしています。お困りの際は、ぜひ一度データックへご相談ください(ご相談・お問い合わせはこちら)。

参考論文

  1. Iketani R, et al. Impact of breakthrough trials on prescription trends of sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors in Japan: An interrupted time-series analysis. J Clin Pharm Ther. 2022. doi: 10.1111/jcpt.13768.
  2. Zaitsu M, et al. Impact of a direct-to-consumer information campaign on prescription patterns for overactive bladder. BMC Health Serv Res. 2018. doi: 10.1186/s12913-018-3147-1.
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