はじめに
データベース研究で「死亡」をアウトカムとして扱う場面は多い一方で、日本のレセプトデータにおける死亡情報は、人口動態統計の死亡票のように、死亡事実・死亡日が確実に入っている情報ではありません。特に入院レセプトの「転帰(死亡)」は、院内死亡の近似として実務上使われることがある一方で、転帰(死亡)に関するデータの未入力や院外死亡の捕捉困難といった構造的限界もあります。
背景として、人口動態統計では高齢者死亡のうち65.7%が病院・診療所で発生する※1とされ、理論上では「入院(医療機関)由来データで多くの死亡を把握できる可能性がある」と期待されます。しかし、入院レセプトの転帰欄の記録は必須ではないため、データの精度の検証が必要です。株式会社JMDCの健康保険組合由来レセプトデータベースを使った研究では、入院患者において、入院レセプトの「死亡転帰」から把握できる死亡情報について、感度は87.6%、特異度は99.25%、陽性的中度は94.82%と報告されています※2。なおこの報告は、あくまで「入院中の死亡」における精度であることに注意が必要です。
本記事では、「入院レセプトデータの死亡情報は、実際の死亡(入院中の死亡に限る)をどの程度捕捉できているのか?」という問いに対して、NDBを用いた妥当性検証の報告書※3を紹介し、実務に活かすポイントを整理します。なお、保険者由来のレセプトデータベースを用いた報告・考察であることに留意ください。
論文紹介:入院レセプトの死亡転帰は高齢者の期待される死亡退院の数の88.2%を把握
今回参照する報告では、NDBの入院レセプトに記録された「死亡転帰」によって把握できる死亡を、患者調査の統計値と突合し、どの程度、期待される死亡退院の数を捕捉できているかを検討しています。
平成26年10月のNDB観察死亡数(医科入院4,046件、DPC 1,640件、合計5,686件)と、患者調査における65歳以上高齢者の推計死亡退院の数(平成26年9月:64,500人)を比較し、高齢者の期待死亡退院の数の88.2%について、NDB入院レセプトの死亡転帰で把握可能と推計しています。
この88.2%は、データベース研究の実務においては「入院中死亡に限定すれば、入院レセプトの死亡転帰はかなりの割合を捕捉できる」ことを示唆します。一方で、100%には届いておらず、死亡転帰欄が必須入力ではない運用・欠損などにより、一定の取りこぼしが残ります。

また、年齢層別では捕捉率に差があり、65–69歳では76.5%ですが、90歳以上では92.7%とかなり高い割合で捕捉できています。
解釈としては、高齢になるほど「医療機関(入院)で死亡する割合」が増えるため、入院レセプト死亡転帰で拾える割合が上がる、という整理が自然です。逆に65–69歳で低めなのは、院外死亡が相対的に多い可能性を示しています。
データベース研究実務に活かせるポイント
本論文を踏まえて、入院レセプトの死亡転帰情報から死亡を定義する際に、データベース研究実務において押さえておくべきポイントを、以下に整理します。
- 利用するデータベースで取得できる「死亡」の定義を明示し、研究チームで合意して研究を進める
- 取得できる「死亡」の定義が、「入院中の死亡」なのか「全死亡」なのかを、明確にする
- 医療機関由来データベースであれば、他医療機関のデータとの紐づけが難しいため、別病院における「入院中の死亡」を捕捉できない。
- 特にレセプトに不慣れなメンバーほど混同しやすいため、プロトコル段階で定義を伝える
- 入院レセプトの死亡転帰に基づく死亡情報は、過小推計する方向のバイアスを持つ前提で扱う
- 死亡転帰が必須入力ではなく欠損・非記載が起こりうるため、死亡は取りこぼしやすい前提で、解釈・感度分析を実施する
- 研究目的に応じて、入院レセプトの死亡転帰に基づく死亡情報の実用性を検討する
- 高齢者・入院イベント中心の研究では、実用的な転帰になり得る
- 若年者・外来中心・全死亡(院外死亡を含む)が評価項目として重要な研究では妥当性が下がる
さいごに
データベース研究において死亡情報はアウトカムにもなりうる、重要な変数の一つです。NDBにおいて死亡情報の連結が進められているように、今後はデータベース側での情報整備・改善が望まれます。一方で、現時点で実務者が利用可能なデータベースには、必ずしも死亡情報が十分に整備されているとは限りません。そのため、研究実務においては、各データベースの特性や限界を理解した上で、利用可能な情報を最大限かつ適切に活用することが重要です。
参考論文
- 厚生労働省. 人口動態調査. 2023.
- Ooba N, Setoguchi S, Ando T, Sato T, Yamaguchi T, Mochizuki M, Kubota K. Claims-based definition of death in Japanese claims database: validity and implications. PLoS One. 2013 May 31;8(5):e66116. doi: 10.1371/journal.pone.0066116.
- 加藤源太, 酒井未知. 厚生労働科学研究費補助金 分担研究報告書 死亡退院患者数統計における NDB データの利用可能性の検討



