DB研究-基礎-

リアルワールドデータでできること・できないことのまとめ

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はじめに

2018年4月に施行された「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令(GPSP省令)」の改正により1)、製造販売後の安全性監視活動にリアルワールドデータ(RWD)を活用することが認められました。薬事承認においても、条件付き早期承認制度下での調査でRWDの活用が認められ2)、さらにはPMDAのレジストリ・データベースに関する相談窓口の整備3-7)やレジストリデータを承認申請等に活用するための留意事項が整備8)されてきました。このように、日本でRWD活用を推進するための規制や基盤整備が進んでおり、その利活用拡大が期待されます。

さて、そんなRWDですが、臨床試験に置き換わるような万能のものではなく、利点も欠点もあります。RWDでできることとできないことを見極めることも利活用推進に必要なことです。今回は、治験で一般的に使われているランダム化比較試験と比較しながらに解説し、さらに製薬企業がどのようにRWDを利活用しているのかを見ていきます。

リアルワールドデータ(RWD)とは

改めてRWDの定義を確認しましょう。 Framework for FDA’s Real-World Evidence Program9)によると、RWDとはさまざまなソースから日常的に収集された、患者の健康状態および医療の提供に関連するデータであると書かれています。つまり、

  • Electronic Health Record(EHR) データ
  • レセプトデータ
  • レジストリデータ
  • 患者報告データ
  • モバイル デバイスのような健康状態を知らせることができるその他のソース

から収集されたデータを指しています。

ランダム化比較試験とRWDの違い

さて、RWDの特徴を臨床研究のゴールドスタンダードであるランダム化比較試験(randomized control trial: RCT)と比較しながら見ていきます。
まず、RCTには以下の欠点があります。

RCTの欠点

  1. 実施困難性
    • 倫理的・費用的な問題から実施困難なことが多いです。例えば、すでに汎用されている医療技術や医薬品について、新たにRCTで有効性を評価することは倫理的・費用的にも困難です。
  2. 5つのtoo
    • Too few(被験者が少ない)
    • Too simple (併存症、併用療法がある患者は除外される)
    • Too median-aged(高齢者、小児、妊産婦は除外される)
    • Too narrow(薬物投与などの治療方法が限定される)
    • Too brief(追跡期間が短い)
  3. 治療の割り当て後に起こる問題点
    • 治療割り当て後の症例の脱落やコンタミネーション(対照群に割り当てられた患者が、自ら希望して介入群と同じ治療を受ける現象)の割合が高すぎると、RCTの内的妥当性が損なわれてしまいます。

RWD利点

RCTの欠点を補うために、リアルワールドデータの活用が期待され、推進されてきた経緯があります。そのため、RCTの欠点や限界はRWDの利点にあたります。

  • 多様な背景をもつ多数の患者集団を対象にした、現実の世界で実際に利用されている治療法を観察したデータが得られる。
  • データベースによっては、桁外れの症例数を確保することができる。
  • サンプル集団以外にも一般化することが可能。
  • 外的妥当性の高い研究になり得る。
  • RCTとは比較にならないぐらいに低コストで実現が可能である。

RCTとRWDの比較

これまでのことから、両者を比較すると以下のような利点と欠点が見えてきます。

RCTRWDを用いた研究
セッティング管理された実験的環境現実社会
評価している内容有効性(efficacy)有用性(effectiveness)
対象限定的、均一で少数多様で多数
交絡の影響受けにくい受けやすい
内的妥当性優れるRCTより劣る
外的妥当性RWDより劣るRCTより優れる
費用莫大RCTより低い
観察期間比較的短期間長期間の観察も可能
実施可能性低いRCTより高い

また、データに着目してみると、RWDと臨床試験データには以下のような違いがあります。10) 

RWDは本来、薬事承認申請等での利用を意図していません。したがって、これらの目的で使用する場合は、使用するデータベースの適合性や品質を十分確認する必要があります。

臨床試験データRWD(二次利用)
データ利用に対する患者の同意文書同意を得ている二次利用の同意は必ずしも得られていない
データベース構造多くはCDISC標準に準拠している標準的なものはない保有するデータ項目の種類や粒度も様々である
データベース保有者臨床試験のスポンサー民間事業者やアカデミアなど
データクリーニング実施している通常実施していない

製薬企業でのRWD利活用

このような利点、欠点があるRWDですが、製薬企業はどのようにそれを利活用しているのでしょうか。日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会タスクフォースに参加している15 社の取り組みを調査した結果によると11)、開発品の市場性評価、適応追加、製造販売後DB調査、実態調査、費用対効果分析、薬剤の有用性評価、外部対照の検討、疾病負荷の調査、医療技術評価、アンメットメディカルニーズ(UMNs)の探索/評価とその利活用は多種多様でした。

費用対効果実態調査有用性評価UMNsの探索適応追加外部対照製造販売後調査
レセプト
Electronic Medical Record
レジストリ
臨床検査値
特定健診情報

◯:経験あり、-:経験なし

  • 費用対効果:費用対効果分析(疾病負荷、医療技術評価を含む)
  • 実態調査:臨床研究前のフィージビリティ評価、開発品の市場性調査、薬剤処方パターンの調査を含む
  • 有用性評価:実臨床下における薬剤の有用性評価

RWDを二次利用する際の注意点

製薬企業でのRWD利活用を紹介しましたが、先述したように、本来RWDはそのような使用目的で収集された情報ではありません。そのため、データを二次利用するためにはその限界を知り、利用する上での様々な工夫が必要になります。11)

  • レセプト病名
    • レセプトデータは、医療費の保険償還のための情報に基づいて構築されているので、請求時の診断名が必ずしも実際の疾患を反映していない可能性があります。
  • 記録として残らない診療行為がある
    • 保険償還に必要ない情報はレセプトに記載されないので、実際に行われた診療行為が全て記載されるわけではありません。
  • 選択バイアス
    • 日常診療下において臨床検査が実施されている患者は、検査をされていない患者と異なっている可能性があるため、EMRデータに含まれる臨床検査値は解釈に注意が必要です。(例:感染症の罹患を疑って特定の臨床検査が実施されている場合、検査が実施された集団の検査結果は、感染の疑いが少ない集団とは異なっている可能性がある)
  • 一般化可能性
    • 一般化可能性の観点から、評価された集団の偏りについて考える必要があります。例えば、DPCデータに基づくDBは、 DPC対象病院のデータに限定されているため、急性期入院医療を担う病院であることが要件となります。そのため、含まれる情報の多くが急性期疾患に罹患する集団の情報に由来するデータとなります。

最後に

RWDの利活用を推進する前に、RWDの利点や欠点を理解しなければなりません。今回はその概要をまとめましたので、今後は具体的な対応策についてまとめていく予定です。


※RWDの利活用、研究の実現可能性などについてより詳しく知りたい方は、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

引用

  1. 厚生労働省令 第116号 「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令等の一部を改正する省令」平成29年10月26 https://www.pmda.go.jp/files/000220766.pdf
  2. 薬生薬審発 1020 第1号「医薬品の条件付き早期承認制度の実施について」 平成29年10月20日 https://www.pmda.go.jp/files/000220723.pdf
  3. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医薬品/再生医療等製品レジストリ活用相談https://www.pmda.go.jp/review-services/f2f-pre/consultations/0101.html
  4. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医薬品/再生医療等製品レジストリ信頼性調査相談https://www.pmda.go.jp/review-services/f2f-pre/consultations/0102.html
  5. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医薬品データベース活用相談
    https://www.pmda.go.jp/review-services/f2f-pre/consultations/0110.html
  6. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医薬品データベース信頼性調査相談https://www.pmda.go.jp/review-services/f2f-pre/consultations/0113.html
  7. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医薬品の疫学調査相談
    https://www.pmda.go.jp/review-services/f2f-pre/consultations/0076.html
  8. 薬生薬審発 0323 第1号 薬生機審発 0323 第1号「承認申請等におけるレジストリの活用に関する基本的考え方」について  令和3年3月23日
    https://www.pmda.go.jp/files/000239817.pdf
  9. U.S. Food & Drug Administration. Framework for FDA’s Real World Evidence Program. 2018
    https://www.fda.gov/media/120060/download
  10. 日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会 2020年度タスクフォース1 「リアルワールドデータを承認申請等に活用するための3つの要件と7 つの提案」 2021年4月https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/lofurc0000005itt-att/bd_rwd_202105-2.pdf
  11. 日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会 タスクフォース2 「製薬企業におけるRWDの活用促進に向けて ~現状、課題、論点整理、将来展望~」 2020年4月
    https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/lofurc0000005k34-att/bd_rwd_sg3.pdf
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ラ・サール高校、東京大学医学部医学科卒業。脳神経外科を経て、株式会社メドレーにてオンライン病気事典及び遠隔診療に携わる。株式会社トライディアで、データサイエンティストとして企業向けデータ解析・AI開発に従事。2018年に株式会社データックを設立。様々な医療データ解析、脊椎外科PRO問診システムや医療言語処理案件を経験し、リアルワールドエビデンス事業を立ち上げた。「医療4.0」では日本の医療革新に関わる医師30人に選出。

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