はじめに
「海外におけるRWEの活用」と聞くと、米国が最初に思いつくのではないでしょうか。
RWD Naviでもこれまでに米国におけるRWE関連法律や活用事例、最新ニュースに関する記事を公開してきました。
一方で、米国以外のRWE活用に関する情報はあまり目にしません。
そこで、今回は2021年10月に公開された、欧州でのRWE活用実態をまとめたレビューを紹介します。
本記事が欧州のRWE情報を知るきっかけになればと思っています。
紹介するレビューについて
Clinical Pharmacology & Therapeutics Clinical Pharmacology & Therapeuticsに掲載された以下のレビューを紹介します。
本レビューは欧州医薬品庁(European Medicines Agency: EMA)が保有するリソースを用いて、2018~2019年にEMAに提出された新規販売承認申請(marketing authorisation applications: MAA)と既承認製品の適応拡大(extensions of indications: EoI)に含まれるRWEの特徴を調査しています。
【RWD/RWEの定義】
本レビューにおける定義は以下の通りです。
- RWD :無作為化臨床試験以外の様々な情報源から日常的に収集された、患者の健康状態および/または医療の提供に関する患者レベルのデータ
- RWE:RWDから得られる情報
【対象製品】
- 2018年1月1日から2019年12月31日までに提出され、欧州医薬品委員会(Committee for Medicinal Products for Human Use: CHMP)で評価されたMAAおよびEolのすべての申請
- 除外した申請:ジェネリック医薬品の申請、Informed consent application、well-established use applications
RWEが活用された製品数
2018年1月1日から2019年12月31日までにEMAが受理したMAAは201件、Eolは163件で、そのうちジェネリック製品に関する申請(n=38)、Informed consent application(n=14)、well-established use applications(n=1)を除外した結果、それぞれ158件、153件が対象となりました。このうち、 MAAの63件(63/158: 39.9%)と EoIの28件(28/153: 18.3%)に RWD/RWE に関する記述がありました。
これらの申請について、2020年8月12日時点での進捗を確認したところ、以下のような結果が得られました。
Initial MAA:158件(63) | Eol:153件(28) | |
承認 | 73件(37) | 104(19) |
取り下げ、拒否 | 26件(4) | 8(1) |
評価中 | 59件(20) | 41(8) |
※1. カッコはRWD/RWEの件数
※2. MAAにおけるRWD/RWE件数の合計が合わない理由は不明
RWEが活用された疾患領域の内訳
調査対象となった製品のATC分類での疾患領域内訳は以下の通りでした。
MAA、EoIともに「B 血液と造血器官」でRWD/RWEが利用される割合が高いことがわかります。
ATC分類 | Initial MAAn with RWE / total assessed(%) | EoIn with RWE / total assessed(%) |
A 消化管と代謝作用 | 6/13 (46.2) | 3/14 (21.4) |
B 血液と造血器官 | 7/11 (63.6) | 7/10 (70.0) |
C 循環器系 | 0/4 (0) | 0/3 (0) |
D 皮膚科用薬 | 0/1 (0) | 0/3 (0) |
G 泌尿生殖器系と性ホルモン | 0/0 (0) | 0/0 (0) |
H 全身ホルモン製剤、 性ホルモンとインスリンを除く | 1/8 (12.5) | 0/0 (0) |
J 全身用抗感染薬 | 14/25 (56.0) | 1/19 (5.3) |
L 抗悪性腫瘍薬と免疫調節薬 | 23/61 (37.7) | 12/78 (15.4) |
M 筋骨格系 | 1/1 (100) | 2/2 (100) |
N 神経系 | 8/17 (47.1) | 1/5 (20.0) |
P 抗寄生虫薬、殺虫剤と防虫剤 | 0/0 (0) | 0/0 (0) |
R 呼吸器系 | 1/8 (12.5) | 1/14 (7.1) |
S 感覚器 | 2/6 (33.3) | 0/2 (0) |
V その他 | 0/3 (0) | 1/3 (33.3) |
承認申請と適応拡大のRWD/RWE活用実態
63件のMAAには合計117の試験、28件のEoIには合計36の試験が含まれていました。
各申請におけるRWD/RWE活用の特徴は以下の通りでした。
RWD/RWEの特徴 | Initial MAAn (%) | Eoln (%) |
申請に使用されたRWE試験の合計 | ||
117 | 36 | |
1申請あたりのRWE試験の数 | ||
1 | 29/63 (46.0) | 23/28 (75.0) |
2 | 22/63 (34.9) | 3/28 (10.7) |
≧3 | 12/63 (19.1) | 2/28 (14.3) |
1申請あたりのRWE試験の数は1つであることが多いことがわかります。 一方で、MAAは1申請あたりのRWE試験の数が3以上の割合が19.1%もあり、RWE試験の数がどのように変化 していくのか注目です。 |
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承認前に実施されたRWE試験の立ち位置 | ||
Main study(ies) | 3/20 (15.0) | 4/16 (25.0) |
Supportive study(ies) | 15/20 (75.0) | 12/26 (75.0) |
Main study(ies)とSupportive study(ies)の両方 | 2/20 (10.0) | 0/16 (0.0) |
RWE試験が補助的な立ち位置であることが多く、こちらは予想通りともいえます。 一方で、新規販売承認申請のMain studyとして使用された研究が5件もあるのは予想に反していました。 欧州ではRWDを使った研究をMain study(本データ)として提出される事例が蓄積されているのだと 伺えます。 |
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EU RMP (Risk Management Plan)のカテゴリー | ||
category 1 (imposed as condition of marketing authorisation ) |
11/54 (20.3) | 1/15 (6.6) |
category 2 (specific obligation of marketing authorisation) |
3/54 (5.6) | 0/15 (0.0) |
category 3(required) | 40/54 (74.1) | 14/15 (93.3) |
RWE試験の目的 | ||
安全性(Safety) | 5/63 (87.3) | 23/28 (82.1) |
有効性(Efficacy) | 31/63 (49.2) | 15/28 (53.6) |
疾患疫学(Disease Epidemilology) | 5/63 (7.9) | 3/28 (10.7) |
医薬品使用実態(Drug Utilisation) | 13/63 (20.6) | 6/28 (21.4) |
薬物乱用(Abuse of drug) | 6/63 (9.5) | 0/28 (0.0) |
その他(Other objectives) | 8/63 (12.6) | 3/28 (10.7) |
RWE試験の目的は安全性、有効性、疾患疫学、医薬品使用実態、薬物乱用など多岐にわたります。 その中でも、有効性を目的とするRWE試験がMAA、 EoIともに約50%も占めています。条件さえ整えば、 RWEを申請に活用できるといったRWEの可能性が見て取れます。 |
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データソース | ||
Electronic health care records from primary care | 8/63 (12.7) | 2/28 (7.1) |
Electronic health care records from secondary care | 8/63 (12.7) | 0/28 (0.0) |
Medical records from primary care | 8/63 (12.7) | 5/28 (17.9) |
Hospital data | 20/63 (31.7) | 7/28 (27.0) |
Claims data | 5/63 (7.9) | 2/28 (7.1) |
Prescription data | 6/63 (9.5) | 3/28 (10.7) |
Dispensing data | 5/63 (7.9) | 1/28 (3.6) |
All registries | 38/63 (60.3) | 13/28 (46.4) |
Disease registry | 21/63 (33.3) | 9/28 (32.1) |
Product registry | 9/63 (14.3) | 3/28 (10.7) |
Other registries | 13/63 (20.6) | 2/28 (7.1) |
Data from compassionate use programme | 2/63 (3.2) | 1/28 (3.5) |
Spontaneous reports | 4/63 (6.3) | 3/28 (10.7) |
Re-use of data from observational studies | 4/63 (6.3) | 1/28 (3.6) |
Linked data sources | 3/63 (4.7) | 1/28 (3.6) |
Other data sources | 18/63 (28.6) | 5/28 (17.9) |
RWE試験の研究デザイン | ||
コホート研究 | 56/63 (88.9) | 22/28 (87.6) |
ケースコントロール研究 | 2/63 (3.1) | 0/28 (0.0) |
横断研究 | 3/63 (4.7) | 2/28 (7.1) |
その他 | 8/63 (12.6) | 3/28 (10.7) |
レジストリーをデータソースとしていることが多いのは意外でした。英国のCPRD(Clinical Practice Research Datalink)のイメージが強く、Claimsデータや電子カルテデータの割合が多いことを予想 していました。日本でもレジストリーの質向上が期待されていますので、レジストリー活用の可能性を 秘めているといえます。(過去の記事:関節リウマチのデータベースのまとめ) |
最後に
今回は欧州でのRWE活用実態をまとめたレビューを紹介しました。
RWE試験の目的や使用したデータソース、研究デザイン、疾患領域を見たところ、個人的にはイメージ通りだと思いました。
製薬業界でのRWD/RWE活用がさらに進むことで、各国の特徴が滲み出てくるのか、あるいは国ごとの差はなくなるのか、今後も継続して情報収集をしていく必要がありそうです。