DB研究-応用-

【開催レポート】データベース研究における時点設定の落とし穴〜バイアスを見える化し、意思決定可能な研究に変える方法〜

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本記事は、2026年1月22日に開催した「第8回 RWD研究戦略ウェビナー『データベース研究における時点設定の落とし穴』」(登壇:田栗正隆 氏〔東京医科大学 教授〕・若林諒三〔株式会社データック〕)の講演内容を、データックがまとめた開催レポートです。
※本ウェビナーは終了しています。当日の講演のポイントを本記事でご紹介します。

第8回 RWD研究戦略ウェビナー データベース研究における時点設定の落とし穴
第8回 RWD研究戦略ウェビナー「データベース研究における時点設定の落とし穴」開催レポート(2026年1月22日開催・オンライン|登壇:田栗正隆 氏〔東京医科大学 教授〕・若林諒三〔株式会社データック〕)

はじめに

弊社では、リアルワールドデータを用いたデータベース研究(DB研究)の方法論や、実務上直面しやすい課題について議論することを目的として、RWD研究戦略ウェビナーを継続的に開催しています。本セミナーでは、東京医科大学 医療データサイエンス分野 教授の田栗正隆先生をお招きし、治療群と対照群を比較する観察研究において、アウトカムの発生を追跡し始める起点、すなわち観察開始時点(Time zero)の設定に起因するImmortal time biasについてご講演いただきました。

本記事では、田栗先生の講演内容を中心に、このTime zeroの設定によってImmortal time biasがどのように生じるのか、そのメカニズムと対処の考え方について整理します。

講演の内容

2つの重要な時点の定義

データベース研究の比較研究では、Time zeroをどこに設定するかを考えるうえで以下の2つの時点が重要になります。

  • 適格基準を満たした時点(Study Entry Date:SED)

    研究対象として組み入れ可能になった最初の時点、診断日や検査値の基準超過日など
  • 治療開始時点(Treatment Initiation Date:TID)

    関心のある治療が実際に開始された時点

実際のデータベース研究では、SEDとTIDが一致しないことも多く、両者の間に時間的なずれが生じます。この「ずれ」の取り扱いによってTime zeroの設定が変わり、Immortal time biasの発生に直結します。

3つのTime zeroの設定

SEDとTIDが異なる状況を3つの代表的なTime zero設定方法※1とともに紹介いたします。

方法1:両群ともSEDを起点とする

  • 以下の状況により治療群において、本来は未治療である期間が、誤って治療曝露期間として扱われる
  • 適格基準を満たした時点(SED)を、治療群・対照群ともにTime zeroとする
  • 治療群では、治療開始前の期間が解析に含まれる
  • 治療群において本来は未治療である期間が、誤って治療曝露期間として扱われる

この設定では、治療開始までの期間が誤分類不死時間(Misclassified immortal time)となり、治療群のイベント発生率が過小評価されます。その結果、治療が実際以上に有利であるかのようなバイアスが生じます。

方法2:治療群はTID、対照群はSEDを起点とする

  • 以下の状況により治療群において、 治療開始まで生存していた患者のみが治療群に含まれる
  • 治療群は治療開始時点(TID)から追跡を開始する
  • 対照群は適格基準を満たした時点(SED)から追跡を開始する
  • 治療群において、治療開始まで生存していた患者のみが治療群に含まれる

この場合、治療開始前の期間が解析から除外されることで除外不死時間(Excluded immortal time)が生じます。群間で追跡開始条件が非対称となるため、ここでも治療群が見かけ上有利に評価される可能性があります。

方法3:治療群はTID、対照群はTIDでマッチングする

  • 以下の状況により、両群とも同一のリスク時点から追跡が開始となる
  • 治療群は治療開始時点(TID)をTime zeroとする
  • 対照群は、治療群各対象者のTID時点で未治療かつ追跡中の患者から選定する
  • 両群とも同一のリスク時点から追跡を開始する

この設定では、不死時間が解析に含まれず、Immortal time biasが生じない構造となります。

3つの異なるtime zero設定方法
図1.3つの異なるtime zero設定方法 (Figure 1※1より引用)

シミュレーションによる確認

治療効果が存在しない条件(ハザード比=1.0)を仮定したシミュレーションでは、方法1(両群ともSED)および方法2(治療群はTID、対照群はSED)でハザード比が1.0を下回り、治療群が有利に見える結果となりました※1。一方、方法3(治療群はTID、対照群はTIDでマッチング)では、そのような偏りは見られず、推定値は1.0付近にとどまりました

このように、Time zeroの設定次第で、治療効果が存在しない状況でも見かけ上の効果が生じる可能性があります。

各方法を比較したシミュレーション結果
図2. 各方法を比較したシミュレーション結果(Figure 3※1 より引用)

実データでの確認

こうしたバイアスの大きさは、実データでも確認されています。Morita論文¹⁾では、JMDC(2011〜2023年)を用いて、高トリグリセリド血症のスタチン使用者を対象に、フィブラート併用群とスタチン単独群でCVDイベント発生を比較する実データ解析が行われました。プロペンシティスコアマッチング後のハザード比は、方法1(両群ともSED)でHR 0.83(95%CI 0.71-0.96)と治療が見かけ上有利に推定された一方、方法3(TIDマッチング)ではHR 1.18(95%CI 1.03-1.36)となり、推定の方向性そのものが変化しました。Time zeroの設定によって結論が大きく変わり得ることが、実データからも確認されています。Wakabayashi et al.(2023)はJMDC(42,308名・2型糖尿病・脂質低下薬使用 vs 非使用・糖尿病性網膜症発症)を対象に、同一データ・同一リサーチクエスチョンに対して複数のTime zero設定を比較しました※3。その結果、方法1(両群ともSED)ではHR 0.65(35%のリスク低減)、方法3(TIDマッチング)相当の設定ではHR 0.99(実際には効果なし)と、Time zeroの設定だけでハザード比が大きく変動することが示されています。

データベース研究実務に活かせるポイント

本講演を踏まえ、データベース研究におけるTime zeroの設定とImmortal time biasへの対応という観点から、実務で押さえておくべきポイントを以下に整理します。

  • 実臨床を把握し、研究デザインの妥当性を確認する
    • 疾患特性や実臨床の治療フローを踏まえて設計を検討する必要があります。また、抽象的な Time zero 定義にとどまらず、患者の時間軸を図示し、各期間の扱い(誰がどの時点で組入れられ、どの時点から追跡されるか)を可視化することで、設定の妥当性を確認しやすくなります。
  • Time zeroの問題が生じやすい状況を見極める
    • SED と TID が一致しにくい疾患・治療戦略では、Time zero の問題が生じやすいと認識する必要があります。具体的には、診断から治療開始までに時間を要する状況や治療切替や追加が行われる状況などが該当します。こうした状況では、SED と TID のラグそのものが構造的に存在するため、Time zero 設定の選択がバイアスに直結します。
    • これは、「はじめに」でも触れたACNUDが適用できない状況になります。実務上、ACNUDが構成できないRQの代表例としては以下が挙げられます。
      • 未治療よりも薬剤Aを投与した方がアウトカムが良いか?
        • 非使用者 vs 新規使用者の比較
      • 既存治療に加えて、薬剤Aを併用した方がアウトカムが良いか?
        • 併用なし群 vs 併用あり群の比較
      • 第1選択薬を継続するよりも、第2選択薬に切り替えた方がアウトカムが良いか?
        • 切替なし群 vs 切替あり群の比較
      • 疾患の寛解後、予防的な投与を継続した方がアウトカムが良いか?
        • 予防投与なし群 vs 予防投与あり群の比較
    • これらのRQでは、対照群側にTIDに相当する明確な時点が存在しないため、Time zeroの設定方法そのものを検討する必要が生じます。
  • 複数の対処法を理解し、トレードオフで選択する
    • 方法論的な厳密さだけでなく、読者にとって解釈しやすいかという観点も意思決定に含めることが重要です。具体的な判断基準としては、以下のような条件を検討することが考えられます。
      • マッチング対象者を十分に確保できるサンプルサイズがあるか
      • 対照群の候補から継続的に未治療者を選定できる研究期間が確保できるか
      • RQ が Active comparator new user design(ACNUD)で構成可能か
    • 理想的なACNUDが設定できない状況においても、構造的なバイアスを最小化するという考え方を持ち、複数の選択肢を比較したうえで決定することが望まれます。

さいごに

データベース研究において、Time zeroの設定は研究デザイン段階で慎重に検討すべき重要な要素です。特に未治療者を対照とした研究では、追跡開始時点の設定次第でImmortal time biasが生じ、治療効果が見かけ上有利に評価される可能性があります。研究計画の初期段階で、SED、TID、Time zeroの関係を整理し、臨床実態に応じて適切な手法を選択することが重要です。

Time zeroの設定やImmortal time biasを含む研究デザインの設計・レビューでお困りの際は、ぜひ一度データックへご相談ください。(ご相談・お問い合わせはこちら

参考

  1. Morita H, Matsuura K, Seya N, Taguri M. Evaluation of Time-related Bias With Non-user Control. J Epidemiol. 2026 Apr 5;36(4):140-147.
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