はじめに
「ベースライン時点で降圧薬を併用している患者」 を臨床であれば問診やお薬手帳で確認できるこの情報を、データベース(DB)研究ではどのように定義しているのでしょうか。
臨床における「併用薬」とは、受診時に患者が内服している薬剤を指します。医師が問診で確認すれば、「この患者は降圧薬を併用している」と自然にわかります。一方、DB研究では、ベースライン時に「併用薬あり」と判定するために、処方レコードから操作的に判定する必要があります。本記事ではこのDB研究における「ベースライン時の併用薬の定義」について整理します。
なお、曝露定義の場面では grace period(処方が切れた後の許容期間)や処方中断の扱いを含めたより詳細な定義設計が必要になりますが、本記事ではそこまで踏み込まず、併用薬のベースライン記述に焦点を絞って整理します。
なぜ定義が問題になるのか
まず、レセプトでは処方がどのように記録されているかを確認しましょう。レセプトの処方レコードは、「処方日」と「処方日数(days supply)」の2要素で構成されています。たとえば「 降圧薬A / 2025年7月4日 /処方日数: 28日」というデータが、「7月4日に28日分の降圧薬Aが処方された」ことを表します。ベースライン時点で患者が実際に服薬中かどうかという情報は、処方レコードに直接は記録されていません。そのため、DB研究では処方レコードから「ベースライン時点で服薬中であったか」を操作的に推定する必要があります。
具体的な事例を考えます。高血圧で定期通院中のAさんは、通常28日分の降圧薬Aを処方され、処方が切れる頃に受診しています。今回は仕事の都合で受診が遅れ、前回の処方から30日目(2日遅れ)に来院しました。DB上の処方レコードは以下のようになります
- 2025年7月4日 / 降圧薬A / 処方日数: 28日
- 2025年8月3日 / 降圧薬A / 処方日数: 28日(← 2日遅れの受診)
臨床的には、Aさんは高血圧治療が継続中であり、たとえば2025年8月1日時点でも「降圧薬Aを併用中」と判断されます。しかし、もし8月1日をベースラインとして「ベースライン当日の処方記録」のみで併用判定した場合、8月1日にはAさんの処方レコードがないため、「降圧薬A併用なし」と誤分類されてしまいます。
したがって、DB研究における併用薬の定義方法は、ベースライン当日の処方記録の有無に依存しない形で設計される必要があります。主要な定義方法は、①同日処方・②評価期間(Assessment window)の設定・③処方期間の設定の3つに整理でき、次セクションで詳述します。
3つの定義アプローチ
ここでは併用薬の主要な定義方法を、Tobi et al.(2007)を参考にしながら①同日処方→②評価期間(Assessment window)の設定→③処方期間の設定の順で検討します¹⁾。
アプローチ①同日処方(Co-prescribing)—Index date当日の処方記録のみで判定
同日処方は、ベースラインの起点日と同日に処方記録がある薬剤を「併用」と判定する方法で、Tobi et al.(2007)の分類における co-prescribing に相当します¹⁾。定義が明確で処方日数(days supply)情報を参照する必要がないため、簡潔な定義になります。
一方で、日本のレセプトでは月1回の外来処方が多いため、ベースラインに処方記録がない=併用なしと誤分類されやすく、処方日≠服薬日の問題も同様に生じます。実際、Riis et al.(2015)は、抗菌薬・喘息薬の新規使用者を対象に短い評価期間における誤分類を検証した研究で、抗菌薬で相対誤分類率(relative misclassification, RM)= 4.75という高い値を報告しています²⁾。同日処方は評価期間がゼロに近い極端なケースに相当するため、Riis et al.の結果から、「臨床的には服薬中の患者を『併用なし』と誤判定する過小評価の方向で、さらに大きな誤分類が生じると推論されます。
以上から、外来処方中心のDB研究では適用が難しいアプローチと言えます。一方、入院データ(注射薬など投与日が明確な場面)では適用しやすいと考えられます。
アプローチ② 評価期間(Assessment window)の設定
Assessment windowは、ベースライン前の一定期間(例: -90日、-180日)に処方記録がある薬剤を「併用」と判定する方法で、Tobi et al.(2007)の possibly concurrent medication に近い概念です¹⁾。同日処方では捕捉できない「ベースライン前に処方されたが当日は処方記録がない薬剤」を拾えます。
処方日数の精度に依存せず、定義がシンプルで、多数の薬効群に一括で適用しやすい点が利点です。一方で、評価期間が広すぎると「すでに服薬していない薬」を拾ってしまい(感度があがり、特異度が下がるというトレードオフ)、期間の長さの選択には恣意性が伴います。一律の期間を多数の薬効群に適用すると、薬剤によっては過大または過小評価が生じる可能性があります。慢性疾患薬と短期処方薬では適切な期間が異なるため、薬剤特性に応じた期間設定が求められ、一律の推奨は困難です。
また、似たような方法として、ベースラインの前後を評価期間とする設定も、persistence研究や使用実態の記述を目的とした研究で採用されています。 併用薬の tAssessment windowとして±7日・±15日・±30日という前後の期間の設定が採用されています¹⁾。実例として、Matsuoka et al.(2025)の日本のIBD患者を対象とした先進治療(advanced therapy)のpersistence研究では、「免疫調節薬・ステロイドの併用は、先進治療開始と同月(±30日)に処方があった場合と定義する」とされています3)。ベースライン直前に処方記録が得にくい場面で併用率を安定的に記述できる利点があります。ただし、治療群間で治療効果を比較する解析では、ベースライン以降の情報はバイアスが混入し得るため、通常は採用されません。
この方法は、薬剤の処方パターン(慢性疾患薬 vs 短期処方薬)によって適切な期間が異なり、一律の優位性を主張できるものではありません。研究目的・対象薬剤・DB特性を踏まえた期間設定が前提となります。
アプローチ③ 処方重複(Concomitant medication / Prescription overlap)—処方日+処方日数から推定される服薬期間で判定
処方重複は、処方日+処方日数から推定される服薬期間がベースラインを含む薬剤を「併用」と判定する方法で、Tobi et al.(2007)の concomitant medication に対応します¹⁾。「実際に服薬していた可能性が高い期間」を推定できるため、3アプローチのなかで臨床の「併用」の概念に最も近い方法と言えます。
そのため、曝露定義や薬剤相互作用評価のように用量・期間の精密な扱いが求められる比較研究の場面で選ばれやすい定義と言えます。
それぞれの3つのアプローチに優劣はなく、研究目的と対象薬剤の処方パターンによって最適な定義が異なります。
3つの定義が併用率判定に与える影響
定義の選び方によって実際の併用率の判定値はどの程度変動するのでしょうか。
Tobi et al.(2007)は、処方パターンの異なる2つの実例を用いて、同一集団に上記3つの定義を適用し比較した実証研究を報告しています¹⁾。
- 長期処方薬同士の例(抗てんかん薬使用者における抗うつ薬併用): 併用率は5.8〜14.5%の範囲で変動し、最大値は最小値の約2.5倍の違い
- 短期処方薬同士の例(ペニシリン系使用者における抗ヒスタミン薬併用): 併用率は0.5〜9.7%の範囲で変動し、最大値は最小値の約12倍の違い
同一集団であっても、どの定義を使うかによって「併用あり」と判定される患者割合は大きく変わります。ただし、Tobi et al. は併用率の変動を示したものの、交絡などの調整後の治療効果推定値の変動を直接検証してはいません。したがって、「定義変更による治療効果推定への影響の方向と大きさは、薬剤や研究設計に依存する」と理解しておくことが重要です。
併用薬を定義するうえでの注意点
ここでは併用薬の操作的定義を設計するうえで意識すべきポイントを3点整理します。
ポイント① 請求記録による判定と臨床の実態との乖離を理解する
臨床での「併用」は患者の服薬状態を直接観察した情報ですが、DB研究では処方・調剤レコードという請求行為の記録から間接的に推定するため、「なぜ定義が問題になるのか」でご紹介した例を想像しながら、併用薬の定義を検討していくことが重要です。
ポイント② 感度と特異度のトレードオフを意識する
評価期間を広げれば感度は上がりますが、特異度は下がります。研究目的に応じてどちらを重視するかを事前に検討することが望まれます。急性期薬剤(抗菌薬等)と慢性疾患薬(降圧薬等)では適切な期間が異なる可能性があります。
ポイント③ 薬剤の使用パターンを考慮する
慢性疾患の定期処方薬(降圧薬、糖尿病治療薬等)と、頓用薬(鎮痛薬等)や短期処方薬(抗菌薬等)では処方パターンが異なります。同じ評価期間でも、短期処方薬では過大評価のリスクが高くなります。Tobi et al.(2007)でも短期処方薬で定義間の差が最大12倍と大きく¹⁾、薬剤の使用パターンに応じた期間設定が重要です。
さいごに
併用薬の定義における、Assessment window(例: -90日〜-180日)が実務で広く用いられる選択肢ですが、薬剤の使用パターンに応じた検討が必要です。本記事が、研究計画の策定やプロトコルレビューの際にご参考になれば幸いです。
併用薬の操作的定義の設計や、研究目的・対象薬剤の処方パターンに応じた評価期間(Assessment window)の設定・解析でお困りの際は、ぜひ一度データックへご相談ください。(ご相談・お問い合わせはこちら)
参考文献
- Tobi H, Faber A, van den Berg PB, Drane JW, de Jong-van den Berg LTW. Studying co-medication patterns: the impact of definitions. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2007;16(4):405-411. DOI: 10.1002/pds.1304
- Riis AH, Johansen MB, Jacobsen JB, Brookhart MA, Stürmer T, Støvring H. Short look-back periods in pharmacoepidemiologic studies of new users of antibiotics and asthma medications introduce severe misclassification. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2015;24(5):478-485. DOI: 10.1002/pds.3738
- Matsuoka K, Nakajo K, Kawamura S, Zhang Y, Chung H, Wahking B, Tan JY, Qiu H. Persistence of advanced therapies in patients with inflammatory bowel disease: retrospective cohort study using a large healthcare claims database in Japan. Intest Res. 2025;23(3):358-371. DOI: 10.5217/ir.2024.00118


