DB研究-基礎-

初回治療の定義における適切なLook Back Periodは?

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はじめに

データベース研究で「新規使用者」を定義する際、どの程度のLook Back Periodを設定すべきかは、多くの研究実務者が直面する実務的な論点です。従来は6〜12ヶ月が一つの「慣習的な基準」として用いられることが多い一方で、それが本当に妥当なのか、どの程度誤分類が生じ得るのかについては十分議論されていないケースもあります。

データベース研究において「新規使用者(new user)」を適切に定義することは、治療効果や予後を正しく評価するうえで重要な前提となります。そのため、多くのデータベース研究では、一定期間当該治療の使用歴がない患者を新規使用者と定義するために、Look Back Period(LBP)を設定します。しかし、LBPの長さは6〜12か月といった慣習的な基準に基づいて設定されることも多く、その妥当性や誤分類リスクについて十分に検討されていないケースも少なくないです。

本記事では、「6〜12ヶ月のLook Back Periodでは不十分となり得る」という示唆とともに、実務上どのような考え方・判断軸でLook Back Periodを設計すべきかを整理します。

論文紹介:6〜12ヶ月という一般的な基準は不十分である可能性がある

本記事で紹介する論文※2はRoberts AW, Dusetzina SB, Farley JF. Revisiting the washout period in the incident user study design: Why 6–12 months may not be sufficient.です。本論文では、脂質異常症薬、糖尿病薬、抗うつ薬という3つの治療領域を対象に、6ヶ月・12ヶ月といった従来のLook Back Periodの基準が、新規使用者コホートの定義として本当に妥当かを定量的に検証しています。

Figure 3. Misclassification of subjects as new users with increasingly restrictive washout periods among subjects with 36 months of continuous enrollment. The figure depicts that as the pre-index washout period duration decreases, the proportion of the incident user cohort comprised of subjects with prevalent use who were misclassified as incident users, increases steadily. Note: A total of 1,195,528, 474,092 and 997,962 study subjects had 36 months of continuous enrollment prior to the index fill for the hyperlipidemia, diabetes and depression cohorts, respectively. Study subjects meeting the 36-month washout period criterion were considered true incident users. Reported numeric values represent percentage of those included in the incident user cohort that were actually prevalent users.

結果として、一定期間連続加入している患者を対象に、Look Back Periodを12ヶ月とした場合、Look Back Periodを12ヶ月として新規患者(incident user)を定義した場合、糖尿病では25.5%、そして脂質異常症および抗うつ薬では約3分の1が、実際には既使用者(prevalent user)であったことが示されました。また、Look Back Periodを6ヶ月としてincident userを定義した場合、その半数が、実際には既使用者(prevalent user)であるという結果になりました。

つまり、従来のLook Back Periodの基準を機械的に適用すると、研究の内的妥当性を損なうリスクが明らかになりました。

データベース研究実務に活かせるポイント

本論文の示唆のように6ヶ月や12ヶ月のLook Back Periodだと誤分類のリスクがありますが、一方でLook back periodを長く設定するとN数が減るというトレードオフもあります。

データベース研究実務において押さえておくべきポイントを、以下に整理します。

  • 疾患・治療特性に応じてLook Back Periodを調整する
    • 心筋梗塞など再発しやすい疾患や慢性使用が多い医薬品の研究では、6〜12ヶ月に固定せず、より長い期間を検討することが推奨される
    • インフルエンザなどの感染症で、昨シーズンにおける罹患等の再発が臨床的に、あるいは研究上重要ではない研究では、より短い期間で十分な可能性がある
  • 処方歴以外の情報を併用する
    • 診断履歴・検査・関連手技の情報を組み合わせることで、既治療患者の除外精度を高められる場合がある
    • 関連疾患や鑑別疾患の除外条件を適切に設計することも有効である
  • 研究目的に応じたトレードオフを意識する
    • 安全性比較や因果推論が重要な研究では、内的妥当性確保のため、長めのLook Back Period設定を優先すべきことがあある
    • 一方、希少疾患や症例数確保が課題となる研究では、Look Back Periodを短くせざるを得ない状況もある。その場合は「発生し得るバイアスを明示し、解釈に注意する」という姿勢が重要である
  • 感度分析を積極的に活用する
    • 12ヶ月設定に加え、18ヶ月・24ヶ月など複数パターンで解析を行い、結論の頑健性を確認することは重要

さいごに

Look Back Periodは「慣習的に6〜12ヶ月」と決めるべきものではなく、疾患特性・治療様式・研究目的・N数確保といった複数要因を踏まえて設計すべき重要なパラメータです。

研究実務者としては「どのくらいの期間にするか?」という単純な問いではなく、「疾患・治療特性を踏まえると、適切な期間はどのくらいか?」「処方歴以外の情報を活用して、誤分類を減らせないか?」「研究目的に立ち返り、バイアスとN数のトレードオフをどう評価するか?」という観点を持つと、研究チームにおける議論・意思決定の質が高まります。

参考論文

1. Danaei G, Tavakkoli M, Hernán MA. Bias in observational studies of prevalent users: lessons for comparative effectiveness research from a meta-analysis of statins. Am J Epidemiol. 2012 Feb 15;175(4):250-62. doi: 10.1093/aje/kwr301

2. Roberts AW, Dusetzina SB, Farley JF. Revisiting the washout period in the incident user study design: Why 6–12 months may not be sufficient. Journal of Comparative Effectiveness Research. 2015;4(1):27–35. doi:10.2217/cer.14.53

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