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米国のRWE関連法律、FDAガイドラインのまとめ

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はじめに

米国ではリアルワールドデータ(RWD)の利活用に関するガイダンス等がいくつか発出しています。今回はその歴史と関連ガイダンス等の概要を紹介します。

  • 21st Century Cures Act
    • アメリカのRWEの発端となる法律です。医薬品または医療機器の導入や承認スピードを向上させるために、その承認プロセスでRWD/RWEを活用されることが明記されました。
  • Use of Real-World Evidence to Support Regulatory Decision- Making for Medical Devices
    • 医療機器でRWEを利用する方法を知りたい人にお薦めです。
  • Use of Electronic Health Record Data in Clinical Investigations
    • FDAの承認も含む臨床研究におけるEHR(電子カルテ)の利用について知りたい人にお薦めです。
  • Framework for FDA’s Real-World Evidence Program
    • 医薬品の承認審査においてRWEを活用する概略や要件、評価方法、懸念点をまとめてあります。
  • Submitting Documents Using Real-World Data and Real-World Evidence to FDA for Drugs and Biologics Guidance for Industry (Draft)
    • 医薬品や生物学的製剤のRWD/RWEを活用した承認で提出する資料の様式・内容について知りたい人にお薦めです。

米国のRWEの歴史

米国ではこれまでに、以下の法律制定やアメリカ食品医薬品局(FDA)によるガイダンス発出がされてきました。

2016年12月 21st Century Cure Act
2017年8月 Use of Real-World Evidence to Support Regulatory Decision- Making for Medical Devices
2018年7月 Use of Electronic Health Record Data in Clinical Investigations Guidance for Industry
2018年12月 Framework for FDA’s Real-World Evidence Program
2019年5月 Submitting Documents Using Real-World Data and Real-World Evidence to FDA for Drugs and Biologics Guidance for Industry (Draft)

21st Century Cure Act1)

21st Century Cures Act は、FDA による医薬品または医療機器の承認プロセスの迅速化、および連邦政府からの研究資金の増額による新医療の導入スピードを向上させることを目的とした法律です。この中の具体的な施策の一つとして、医薬品または医療機器の承認プロセスにRWD/RWEを活用することが挙げられています。後述するフレームワークやガイダンスの作成根拠は”§355g. Utilizing real world evidence”の章に書かれており、FDAに作成の義務付けがされています。

21st Century Cures Act に基づくガイダンス等に成果物一覧はFDAの21st Century Cures Act Deliverables2)をご確認ください。

Use of Real-World Evidence to Support Regulatory Decision- Making for Medical Devices3),4)

Use of Real-World Evidence to Support Regulatory Decision- Making for Medical Devicesは、医療機器のRWEを規制の意思決定にどのように利用するかについてが書かれています。FDAは、RWEの生成に利用されたRWDが十分な品質であると判断した場合には、医療機器の規制上の意思決定の根拠とするためにRWEを利用する見解を示しています。本ガイダンスでは、意思決定に要求される十分な品質を満たしているか否かを判断する評価基準として「関連性(Relevance)」と「信頼性(Reliability)」を掲げています。

関連性(Relevance)

  • RWDには、医療機器の使用方法、曝露、及び適切な母集団における対象アウトカムを把握するのに十分な詳細情報が含まれているか
  • 妥当かつ適切な解析方法が適用される場合に、その解析に利用可能なデータ要素は、特定の設問に対応しうるものか 
  • 提供されるRWD及びRWEは、情報を得た上での臨床的・科学的判断として解釈可能なものか

信頼性(Reliability)

信頼性(Reliability)はデータ発生(Data accrual)とデータ保証・品質管理(Data assurance – Quality Control)に分けて考えられています。

データ発生

  • 個々の施設におけるRWDの完全かつ正確な収集のための準備状況(例えば定義されたプロセス、施設におけるトレーニング と支援体制、スタッフの能力など) 
  • 共通のデータ収集様式が使用されたかどうか
  • 共通の定義フレームワーク(すなわちデータ辞書)が使用されたかどうか
  • 重要なデータ・ポイントを収集するための 共通の時間枠組みの遵守
  • 研究計画、プロトコル、及び/又は解析計画を、RWDの収集若しくは検索と関連し て確立するタイミング
  • データ要素の取得に使用された情報源及び 技術的方法(例えばチャートの抽象化、臨床現場即時登録(point of care entry)、 EHR統合、固有機器識別子取得、機器からのデータ記録、及び請求データへのリンク)
  • 患者選択及び登録基準がバイアスを最小限に抑え、実際の母集団を確実に代表しうるかどうか(例えば、all-comerʼsデザイン、連続的患者登録)
  • データ登録、送信、及び可用性の適時性
  • 必要かつ適切な患者保護が実施されているかどうか(例えば、IRB審査により決定し たFDA規制に従う患者プライバシー保護の方法、インフォームド・コンセントの必 要性など)

データ保証・品質管理

  • データ要素の母集団の質(例えば、転写エラーの評価について検証可能な情報源から抽出されたものか、あるいはデータ抽出アルゴリズムを通じて自動的に取り込まれたものか)
  • 完全性と一貫性を保つための、情報源の検証手順及びデータ収集・記録手順の遵守状況
  • 交絡因子の調整を含む、特定の解析に必要 なデータの完全性(すなわち、欠損値又は 外れ値の最小化)
  • 施設間及び長期間にわたるデータの一貫性
  • 参加施設におけるデータ収集及びデータ辞書使用のために実施中のトレーニング・プログラムの評価
  • 施設に対する評価及びデータ・モニタリング手順の評価
  • データ品質監査プログラムの利用

Use of Electronic Health Record Data in Clinical Investigations Guidance for Industry5)

Use of Electronic Health Record Data in Clinical Investigations は、FDAの規制に基づいて行われる臨床研究で EHR(electronic health record)データを利用する際に考慮すべき事項や、規制要件等をまとめたガイダンスです。

本ガイダンスは日常診療下での臨床研究も含めた、医薬品、生物製剤、医療機器、コンビネ ーション製品の前向き臨床研究を対象としています。また、米国の新薬臨床試験開始届(IND: investigational new drug applications)や医療機器臨床試験開始届を提出していない米国外の臨床試験であっても、試験データを医薬品または医療機器の承認申請資料に用いる場合は本ガイダンスの対象となります。一方、EHRデータを用いた市販後観察研究と試験計画・被験者登録の実施可能性評価、レジストリや疾患の自然歴を評価する研究は対象です。具体的にはEHRシステムとEDC(electronic data capture)システムの相互運用と統合を促進するため、データの規格、 構造化データの変換と非構造化データの抽出、バリデーション、複数のEHRシステムからのデータについて留意点が示されています。試験委託者はデータマネジメントプランの中にEHRシステムのリスクを含める必要があり、システムの製造業者、モデル番号、バージョン番号および The Office of the National Coordinator for Health Information Technology(ONC)の認証取得状況を記載しなければなりません。外国施設でのEHRシステムを含めONCの認証を得ていない EHRシステムでは、データの機密性、完全性、セキュリティが保証されていることを示すデータを提供する必要があります。

Framework for FDA’s Real-World Evidence Program6)

FDA’s Real-World Evidence Program(RWE Program)は、医薬品の薬事審査における有効性評価に RWEが活用可能であるかをFDAが主体となって評価し、実装を目指す取り組みです。

Framework for FDA’s Real-World Evidence Program は、FDAがRWE programを実行するための枠組みをまとめたものであり、FDAが医薬品の有効性評価にRWEを利用するうえで検討すべき懸念事項や、今後FDAが取り組む活動の概略が述べられています。

FDA は製薬企業等から実際に提出された一部変更承認申請の資料等について RWE program をより一般的に導入していくため、以下の3つの視点を挙げています。

  1. RWEが規制判断への使用に適しているか
  2. RWE構築のために行う臨床試験や臨床研究から、規制上の疑問に答え得る十分な科学的根拠を得られるか
  3. RWE構築のために行う臨床試験や臨床研究が、FDAの規制要件に適合しているか

また、RWE Programでは検証プロジェクトの設立やステークホルダーとの協力、FDAの内部プロセスの活用、申請者を支援するためのガイダンスの作成を行っており、より具体的な活動の取り組みとして、以下の 4 つを挙げています。

  1. 規制上の意思決定に使用するRWDの適合性への取り組み
  2. RWD を用いた試験デザインに関する取り組み
  3. RWD を用いた試験デザインに関する規制上の懸念事項に関する取り組み
  4. データ統合および FDAへの提出のためのデータ標準に関する取り組み

Submitting Documents Using Real-World Data and Real-World Evidence to FDA for Drugs and Biologics Guidance for Industry (Draft)7)

Submitting Documents Using Real-World Data and Real-World Evidence to FDA for Drugs and Biologics (Draft)は、RWDで構築したRWEを医薬品や生物学的製剤の申請に用いる場合の留意事項や、提出様式を示したドラフトガイダンスです。IND申請や新医薬品承認申請(NDA: new drug applications)、生物学的製剤承認申請(BLA: biologics license application)に適用し、これらの申請がRWEを活用したものであることを把握できるようにすることが目的です。

本ガイダンスが適用される申請または研究の例は以下の通りです。

  1. 臨床アウトカムまたは安全性データを得るためにRWDを使用したRCTのIND申請
  2. 外部対象にRWEを用いた新しい単群試験のプロトコル
  3. 有効性の補完をサポートするためのRWEを構築する観察研究
  4. 規制上の意思決定をサポートするために安全性または有効性のさらなる評価を要する場合に、 製造販売後の要件として行うRWEを用いた臨床試験または観察研究

※ここまでの法律やガイダンスの要約は日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会 タスクフォース2 「リアルワールドデータを承認申請へ~活用促進のための提言~」 7)より引用しています。

最後に

米国におけるRWD関連の法律やガイダンスを知ることで、活用事例や最新情報の理解もしやすくなると思います。今回は概要を紹介しましたので、今後は各ガイダンスの解説記事を予定しています。

引用

  1. 21st Century Cures Act. https://www.congress.gov/114/plaws/publ255/PLAW-114publ255.pdf
  2. 21st Century Cures Act Deliverables https://www.fda.gov/regulatory-information/21st-century-cures-act/21st-century-cures-act-deliverables
  3. U.S. Food & Drug Administration. Use of Real-World Evidence to Support Regulatory Decision-Making for Medical Devices. 2017. https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/use-real-world-evidence-support-regulatory-decision-making-medical-devices
  4. Rinsho Hyoka(Clinical Evaluation). 2019; 47: 163-83.
  5. U.S. Food & Drug Administration. Use of Electronic Health Record Data in Clinical Investigations. 2018. https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/use-electronic-health-record-data-clinical-investigations-guidance-industry
  6. U.S. Food & Drug Administration. Framework for FDA’s Real World Evidence Program. 2018. https://www.fda.gov/media/120060/download
  7. U.S. Food & Drug Administration. Submitting Documents Using Real-World Data and Real-World Evidence to FDA for Drugs and Biologics (draft). 2019.  https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/submitting-documents-using-real-world-data-and-real-world-evidence-fda-drugs-and-biologics-guidance
  8. 日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会 タスクフォース2 「リアルワールドデータを承認申請へ~活用促進のための提言~」 2020年4月 https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/lofurc0000005k34-att/bd_rwd_sg2.pdf
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ラ・サール高校、東京大学医学部医学科卒業。脳神経外科を経て、株式会社メドレーにてオンライン病気事典及び遠隔診療に携わる。株式会社トライディアで、データサイエンティストとして企業向けデータ解析・AI開発に従事。2018年に株式会社データックを設立。様々な医療データ解析、脊椎外科PRO問診システムや医療言語処理案件を経験し、リアルワールドエビデンス事業を立ち上げた。「医療4.0」では日本の医療革新に関わる医師30人に選出。

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