海外の動き

RWEのリーディングカンパニーAetion社の取り組み

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はじめに

RWE(リアルワールドデータ)を活用して質の高いRWE(リアルワールドエビデンス)を生み出すためには、適切なデータソースの選択、高い質の疫学・統計手法、Transparency(透明性)、 Reproducibility(再生性)などの課題があります。そのソリューションを提供するAetion社について、サービス内容や実績、直近の活動を紹介します。

RWEが抱える課題

リアルワールドデータを用いた研究は、変数の取り扱いやバイアスへの対処の関係で、多様な研究デザイン・解析手法が存在します。そのため、下記のような問題が発生します。

  • 研究デザインや解析手法の選択
    • リアルワールドデータは研究目的に収集されたデータではありません。時間軸の取り扱い・交絡やバイアスへの対処・多くの変数の取り扱いに注意が必要です。そのため、多様で複雑な研究デザイン、解析手法を適切に選択する必要があり、そこに難しさや曖昧さがあります。
  • 研究のTransparency
    • RWDを取り扱う場合、格納された状態に対して、前処理、対象となる患者コホートの抽出、統計処理を行う直前のデータ整形が行われます。そのデータ処理を各エンジニアが行う場合、その処理はblack box化しがちです。
  • 研究のReproducibility
    • ある研究の論文を読んだ他者が、同じデータセットを使って同じ結果を再生できることが望ましいです。しかしデータベース研究では報告様式や解析手法の詳細が分かりづらく、Reproducibilityに問題を抱えていることが多いです。

上述した課題に関連して、以前の記事「リアルワールドデータでできること・できないことのまとめ」や「薬剤疫学研究プランニングツールSTaRT-RWEの紹介」も是非ご覧ください。

Aetion社のソリューション Aetion Evidence Platform®

概要

Aetion社は高い質のRWEを効率的に生み出すAetion Evidence Platform®を提供しています1)。具体的には、どんなタイプのRWDにも対応し、図2のような操作画面で、ノーコードで薬剤疫学分析を行うことができます。

図1: 引用2)より引用

図2: 引用2)より引用

図3: 引用3)より引用

実績

Aetion Evidence Platform®は薬事承認プロセスで利用されています。

2019年には、FDAで承認された161の医薬品のうち、Aetion社のサービスが使われた解析は51もありました。2020年には、FDAで承認された147の医薬品のうち、同サービスが使われた解析は59もありました1)

製薬企業への提供価値

  • 解析・RWE創出の加速化
    • 一番の価値は、解析・疫学調査を加速化させることです。ノーコードで解析できることで、データハンドリングが得意ではない人も、ちょっとしたClinical Questionをすぐに検証・調査することができます。
  • データソースを横断した解析の実施
    • 複数のデータソースに対して同じ手法ですばやく解析をすることが出来ます。ある研究におけるデータソース選択や複数のデータソースの結果を比較したり組み合わせたりすることが容易になります。
  • 統計解析の保証
    • 疫学手法、統計解析手法について、アカデミアで受け入れられている手法を採用します。また各手法のreferenceも準備しています。
  • Transparency(透明性)
    • まずデータ処理や統計解析のプロセスが保存・可視化されており、Transparency(透明性)が高いことが特徴です。
  • Reproducibility(再生性)
    • 各エンジニアが独立した環境で解析を行う場合、Gitでスクリプトを管理したとしても、使ったソフトウェアやパッケージのバージョンに差異がある場合、同じ結果を再生できません。

また、データ処理や統計解析の誤りを防ぐために製薬企業で行われるDouble Programingについては、ほとんどの場合、2人のエンジニアで同じ結果が出ないという調査4)もあります。

Aetion Evidence Platform® では、データ処理から統計解析までの全てのプロセスについて、確認・再生・修正を容易に行うことができます。

  • ドキュメント自動作成・標準化
    • 実施したデータ処理や統計解析について、薬剤疫学で必要とされる説明やグラフ(フロー図等)が自動で作成されます。
  • 様々なデータソースへのアクセス
    • Aetion社自身が様々なデータソースと連携していて、製薬企業が直接データソース元(データプロバイダーや医療機関等)と契約しなくても、解析を行うことができます。

FDA(規制当局)への提供価値

Aetion Evidence Platform®が薬事承認プロセスで使われている理由は、FDAにとってのペインポイントである「レビューの効率化と質の向上」を同時に解決するソリューションだからです。

丁寧にマニュアルをつくったとしても、製薬企業や解析者によって、提出する資料のフォーマットはばらつきます。FDAは、治験で製薬企業から提供されたデータセット・研究計画書・解析計画書等に基づき、レビューの一環として研究結果の再現をしています。この作業には、非常に手間がかかります。しかしAetion Evidence Platform®を利用することで、標準化されたデータ処理・統計解析が行われ、ドキュメントも同一のフォーマットとなり、とてもレビューしやすくなります。

Aetion社の最近の活動

RCT DUPLICATE

名前の通り、RCTとして行われた試験をRWDで再現しようという取り組みです。

FDA、Brigham and Women’s Hospital、Aetion社の共同プロジェクトが走っています5)。そのプロジェクトでは、30ものRCTの結果の再現を目的としています。

各国当局との連携

FDAとも様々なプロジェクト、研究活動を行ってきましたが、最近はヨーロッパへの進出も盛んです。NICEとの協働を発表するなど、ヨーロッパにおいても当局との連携を深めています。

データ関連企業の買収や連携

2022年1月には Replica Analytics社というデータ関連企業の買収を発表しています6)。Replica Analytics社は機械学習、Deep Learningを用いて、プライバシーに配慮したデータシェアリングを可能とする技術を保持しています。

情報が限られていますが、この買収からの狙いとして例えば、患者単位でプライバシーに配慮しながら、複数医療機関や保険者、スマホデータ、PHRなどの複数データソースを統合してデータベースを構築する試みが考えられます。

データベースプロバイダーとの連携

最近はヨーロッパのデータベースプロバイダーとの連携を強化しています。

2021年7月には、ヨーロッパのデータプロバイダー Cegedim社とAetion社が協働したという発表がされています7)。 Cegedim社はイギリス、フランス、スペイン、イタリア、ベルギー、ルーマニアのデータベースを保有しています。Aetion社と連携することで、ヨーロッパ各国のデータソースに対して疫学研究を行いやすい環境が整います。

資金

図3: 引用6)より引用

調達

2022年2月時点で累計$203.6M調達しており(図3)8)、日本のヘルスケアスタートアップとは複数桁規模が違います。また出資している企業として、Johnson & Johnson Innovation、UCB、Amgen Ventures、Sanofiなど複数の製薬企業が名を連ねていることも特徴的です。

医薬品開発、薬事承認の領域で新しい取り組みにチャレンジする場合、FDAや製薬企業、アカデミアが強力に連携していく必要があります。関係者でwin-winの取り組みを行っていくことが前提ですが、協働を加速する上で、資本提携も大切な要素だと思います。

最後に

RWEのリーディングカンパニーであるAetion社について、サービスの内容、製薬企業や当局に提供している価値、最近の活動について紹介しました。Aetion社が取り組んでいる

  • データベース横断的な取り組み
  • 疫学解析を型化して質と効率を向上させる取り組み

は、RWEを推進していく上でもとても重要です。弊社ではこういった取り組みを日本でも広げていきたいです。

引用

  1. ebook The Role of Real-World Evidence in FDA Approvals 2021 UPDATE
    https://fs.hubspotusercontent00.net/hubfs/7835901/%5BeBook%5D%20RWE%20in%20FDA%20Decisions%20-%202021%20Update/Aetion_eBook_2021_The%20role%20of%20RWE%20in%20FDA%20Approvals.pdf
  2. Platform – Aetion
    https://aetion.com/platform/
  3. ハーバード研究者たちが起業「どの人にどの薬が最も効くのか」を解き明かすAetion | TECHBLITZ
    https://techblitz.com/aetion/
  4. Big data approaches in pharmacovigilance: Using big, real-world data to create decision-relevant evidence Jeremy A. Rassen, Sc.D. President & Chief Scientific Officer Aetion, Inc. October 16, 2017
    https://isoponline.org/wp-content/uploads/2017/11/11.00-Rassen.pdf
  5. FDA, Brigham and Women’s Hospital and Aetion Partnership – Aetion
    https://www.aetion.com/press-release/fda-expands-real-world-evidence-partnership-with-brigham-and-womens-hospital-and-aetion
  6. Aetion acquires Replica Analytics to bring aboard synthetic data capabilities
    https://medcitynews.com/2022/01/aetion-acquires-replica-analytics-to-bring-aboard-synthetic-data-capabilities/
  7. Aetion and Cegedim expand real-world data partnership | PharmaTimes online
    https://www.pharmatimes.com/news/aetion_and_cegedim_expand_real-world_data_partnership_1373055
  8. Aetion – Crunchbase Company Profile & Funding
    https://www.crunchbase.com/organization/aetion-2
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ラ・サール高校、東京大学医学部医学科卒業。脳神経外科を経て、株式会社メドレーにてオンライン病気事典及び遠隔診療に携わる。株式会社トライディアで、データサイエンティストとして企業向けデータ解析・AI開発に従事。2018年に株式会社データックを設立。様々な医療データ解析、脊椎外科PRO問診システムや医療言語処理案件を経験し、リアルワールドエビデンス事業を立ち上げた。「医療4.0」では日本の医療革新に関わる医師30人に選出。

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