はじめに
曝露とアウトカムの関連を検討する観察研究では、傾向スコアマッチングや多変量回帰分析によって測定された交絡因子を調整することが一般的です。しかし、これらの手法では測定されていない交絡因子(未測定交絡因子)まで調整できません。
データベース研究では、生活習慣や臨床検査値など重要な交絡因子がデータに含まれていないことが多く、未測定交絡が問題になりやすい状況にあります。こうした未測定交絡への対処として、感度分析の重要性が高まっています。ICH M14ガイドライン(2025年)やFDAのRWDガイダンス(2023年)では、未測定交絡に対する定量的バイアス分析の実施が求められています※1, 2。本記事では、その代表的な手法の一つであり、「未測定の交絡因子はどの程度強ければ観察された結果を覆しうるのか?」に対して1つの数値で答えを示すE-valueの考え方と使い方を確認します。
E-valueの定義と計算
E-valueとは
E-valueは、VanderWeele & Ding(2017)がAnnals of Internal Medicineで提案した感度分析の指標です※3。定義は次のとおりです。
E-value:観察された関連を完全に説明するために、未測定交絡因子が曝露とアウトカムの双方に対して持つ必要がある最小の関連強度(リスク)
つまり、「観察された研究結果が、未測定の交絡因子だけで説明できてしまうとしたら、その交絡因子は曝露とアウトカムの両方に対してどれほど強い相関を持つ必要があるか」という指標になります。直感的な解釈は、E-valueが大きいほど「結果を覆すには非常に曝露・アウトカムに非常に強く関連する未測定交絡が存在する必要」であることを意味し、その蓋然性が低ければ結果は頑健と言えます。逆にE-valueが小さい場合は、わずかな未測定交絡があるだけで結論が変わりうることを示唆します。
E-valueの計算式
観察研究で得られたリスク比(RR)には、まだ測定されていない未測定交絡因子Uによるバイアスが含まれている可能性があります。たとえ曝露EとアウトカムOの間に因果関係が全くなくても、図1のようにUが双方に強く関連していれば、データ上には見かけ上の相関が現れてしまいます。

図1.未測定交絡因子と曝露・アウトカムの関連図
E-valueは、未測定交絡因子Uが観察されたRRを完全に説明すると仮定した際、その関連(RR_UEおよびRR_UO)が最小となる条件(RR_UE= RR_UO)に基づいて計算されます。その算出式は以下の通りです。
E-value = RR + √{RR ×(RR − 1)}
実際の計算例
VanderWeele & Ding(2017)は、人工乳で育てられた乳児の呼吸器疾患死亡リスク(RR = 3.9$ [95% CI: 1.8–8.7])を例に挙げています※1。
- 点推定値のE-value = 3.9 + √(3.9 × 2.9) = 3.9 + 3.36 ≈ 7.26
- 信頼区間下限(RR = 1.8)のE-value ≈ 3.0
この結果は、「RR = 3.9という曝露とアウトカムの関連を未測定交絡だけで完全に説明するには、その交絡因子が曝露・アウトカム両方とRR=7.3の関連を持つ必要がある」ことを意味します。疫学研究において7倍を超える交絡は極めてまれであり、この関連は未測定交絡に対して頑健であるといえます。
データベース研究実務に活かせるポイント
E-valueは計算が簡便なため急速に普及しましたが、適切に使われていないケースも報告されていますBlum et al.(2020)は、E-valueを報告した87論文(516個の指標)を調査し、以下の問題を指摘しています※4。
- 解釈の基準の欠如: 「頑健」と判断された研究とそうでない研究の間で、E-valueの大きさに明確な境界線(カットオフ)は存在しない。
- 算出後の不十分な対応: 多くの論文がE-valueを算出するだけで、具体的な交絡因子の検討を怠り、結果を安易に肯定する方法として利用していた
これらの点を踏まえると「E-valueを算出して終わり」では不十分であるため、実務上は、以下の3点を意識することが重要です。
1. 前提:E-valueが評価するのは未測定交絡のみであることを認識する
E-valueは選択バイアスや情報バイアス(アウトカムの誤分類など)は評価しません。データベース研究で頻出するこれらのバイアスについては、別途検討する必要があります。
2. 交絡因子への対応:交絡因子の選択プロセスと感度分析をセットで考える
Inoue et al.(2025)は、交絡因子の選択にmodified disjunctive cause criterionを用いた上で、調整しきれない交絡に対してE-valueやrobustness valueで感度分析を行うアプローチとして整理しています※5。交絡因子の「調整方法」と「残った交絡因子への対処」を一貫して設計することが重要となります。
3. E-value算出後:具体的な交絡因子候補を と考慮して解釈する
E-valueが示す未測定交絡因子の関連の強さが現実的かどうかは研究者自身が判断する必要があります。たとえば、ある研究でE-value = 4.4と算出されたとします。喫煙を調整できていない場合、喫煙と曝露の関連が約2倍、喫煙とアウトカムの関連も約2倍と推定されるなら、未測定交絡因子のバイアスの強さ= (2.0 × 2.0) / (2.0 + 2.0 − 1) ≈ 1.33 です。これは観察されたRRを覆すには不十分であり、喫煙だけでは結果を説明できないと判断できます。このように、候補となる交絡因子の関連強度から未測定交絡因子のバイアスの強さを計算して評価することが重要です。
さいごに
E-valueは、観察研究における「もし未測定の交絡因子が存在するとして、それがどの程度強ければ観察された結果を覆しうるのか?」という問いに対して、シンプルかつ定量的な回答を与える指標です。一方で、算出するだけでは不十分であり、算出する前からバイアスについて検討していくことが重要です。データベース研究の結果を報告する際、あるいは論文を批判的に読む際に参考になれば幸いです。
観察研究における関連を検討する研究について、研究目的に応じた指標設計・解析についてお困りの際は、ぜひ一度データックへご相談ください(ご相談・お問い合わせはこちら)。
参考論文
- ICH M14 Guideline: General Principles on Plan, Design and Analysis of Pharmacoepidemiological Studies that Utilize Real-World Data for Safety Assessment of Medicines. Step 5, 2025.
- FDA. Considerations for the Use of Real-World Data and Real-World Evidence to Support Regulatory Decision-Making for Drug and Biological Products. Final Guidance, 2023.
- VanderWeele TJ, Ding P. Sensitivity Analysis in Observational Research: Introducing the E-Value. Ann Intern Med. 2017;167(4):268-274. DOI: 10.7326/M16-2607
- Blum MR, Tan YJ, Ioannidis JPA. Use of E-values for addressing confounding in observational studies—an empirical assessment of the literature. Int J Epidemiol. 2020;49(5):1482-1494. DOI: 10.1093/ije/dyz261
- Inoue K, Sakamaki K, Komukai S, et al. Methodological Tutorial Series for Epidemiological Studies: Confounder Selection and Sensitivity Analyses to Unmeasured Confounding From Epidemiological and Statistical Perspectives. J Epidemiol. 2025;35(1):3-10. DOI: 10.2188/jea.JE20240082


