DB研究-基礎-

No.29 All-available look-back approachを使用する際の検討観点と注意点は?

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はじめに

リアルワールドデータ(RWD)を用いた研究では、曝露・アウトカムの新規発生を捉える除外基準や共変量評価のためのLook Back Period(LBP)の設定が重要となります。多くの研究では1年や2年など一定期間のLook Back Period(fixed look-back approach)を設定しますが、この方法では十分にそれ以前の既往歴や治療歴が捉えられない可能性があり、誤分類につながる可能性があります。

この課題に対して提案されているのが all-available look-back approach です。この方法では、データベースに存在する全期間の過去の情報を利用して既往歴や治療歴を定義します。本記事では、fixed look-back approachとall-available look-back approachを比較した研究を紹介し、どのような場面でこの方法を採用することが有用かを考察します。

論文紹介:Fixed look-back approachとall-available look-backを比較した研究

本記事で紹介する論文※1では、米国Medicareデータを用い、スタチン開始者と非開始者を対象として、fixed look-back approachやall-available look-back approachなどのLBPの設定が既往症の把握や治療効果推定にどのような影響を与えるかを評価しました。その結果、all-available look-back approach は3年固定look-backとほぼ同等の推定結果を示し、1年固定look-backよりも既往歴の誤分類が少ない傾向が確認されました。また、3年固定look-backはわずかにバイアスが小さい可能性がある一方で、長期間の連続登録を要求するため対象者の多くが除外され、推定の精度が低下するというトレードオフがみられました。これらの結果から、長い固定look-backを設定することが難しい状況でも、all-available look-back approachを用いることで既往歴をより可能な限り正確に把握しつつ、対象者数を維持した解析が可能になることが示唆されています。

図1. 研究デザイン(FIGURE 1 Study schematic※1より引用)

また、別の研究※2でも同様の比較が行われており、fixed look-back approachでは捕捉しきれなかった既往歴や治療歴が把握できることが報告されています。一方で、既往歴や治療歴などの捕捉は増えるものの、治療効果の推定値自体は大きく変化しないことも示されており、all-available look-back approachは既往歴や治療歴などの感度を高めながら推定精度を保つ方法と考えられています。

これらの研究は、all-available look-back approachが既往歴や治療歴の捕捉を改善する可能性を示しつつも、推定される治療効果自体は大きく変わらない場合も多いことを示しています。

データベース研究実務に活かせるポイント

All-available look-back approachは目的に応じて一部のLBPに用いる

RWDを用いた研究では、すべての評価期間にall-available look-back approachを用いるのではなく、一部の共変量の評価や曝露・アウトカムのウォッシュアウト期間など、目的に応じて部分的に用います。各LBPの期間をどのように設定するかについては、以下の3つの観点から検討を進めるのがスムーズです。

  1. 取得したい変数の誤分類の程度:既往歴・治療歴などをどこまで厳格に特定する必要があるか?(誤分類が致命的なバイアスを生まないか?)
  2. サンプルサイズの許容範囲:「長い期間のLBP」を条件とすることで、対象者数(サンプルサイズ)の減少をどこまで許容できるか?
  3. 群間の不均衡:比較群間で、コホート組入れ以前の利用可能なデータ期間の長さの分布が同じか?(その差がバイアスにならないか?)

All-available look-backアプローチが有力な選択肢となるケースとして、過去の「疾患歴」を持つ患者を厳格に除外したいが、サンプルサイズは減らしたくない場合です。たとえば、特定の薬剤が「心血管(CV)イベントの新規発生」に与える影響を評価したい場合など、過去に同種のイベントを起こした患者をコホートから確実に除外(アウトカムWashout)したいときに有用となります。 一点注意すべき点として、比較群間でコホート組入れ以前のデータ期間の長さが異なる場合、データ期間が長い群ほど過去のアウトカム歴が多く検出されてしまいます。その結果、群間で患者の選択のされ方が異なってしまうため、真の差ではなくデータ期間の長さによる見かけ上の差が生じる可能性があります。そのため、比較研究においては特に、コホート組入れ前に各群でどの程度のデータ期間が存在するかに留意したうえで、All-available look-backアプローチの採用を検討する必要があります。

さいごに

「Look Back Periodは長ければ長いほどよい」というわけではありません。all-available look-back approachは、対象者数を維持しながら情報の精度を高める強力な手法ですが、比較群間での「データの長さの不均衡」という罠が潜んでいます。all-available look-back approachは、fixed look-back approachと比較して、既往歴や治療歴などの共変量をより完全に把握できる点で有用です。研究目的やデータベースの特性を踏まえ、fixed look-back approachとall-available look-back approachを適切に使い分けることが、信頼性の高いRWD研究につながります。

参考論文

  1. Conover MM, Stürmer T, Poole C, Glynn RJ, Simpson RJ Jr, Pate V, Jonsson Funk M. Classifying medical histories in US Medicare beneficiaries using fixed vs all-available look-back approaches. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2018 Jul;27(7):771-780. doi: 10.1002/pds.4435.
  2. Nakasian SS, Rassen JA, Franklin JM. Effects of expanding the look-back period to all available data in the assessment of covariates. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2017 Aug;26(8):890-899. doi: 10.1002/pds.4210.
  3. 深澤 俊貴, 岩上 将夫, 原 梓, 漆原 尚巳. デザインダイアグラム:リアルワールドデータを活用した研究デザインを可視化し,再現性を高めるフレームワーク. 薬剤疫学. 2023;28(2);39-55. https://doi.org/10.3820/jjpe.28.39
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